遺産分割協議はやりなおせるのか?
相続人全員が満足して遺産分割協議が成立するケースは、実際には多くはありません。
何らかの不満や不公平感を持っていても、親族間でもめたくないので我慢される方も少なくないでしょう。相続税の申告が必要な場合は、10か月以内に分割協議をまとめないといけないという時間的な制約もありますので、よりその傾向が強くなります。
そんなケースでは、遺産分割協議が成立して、不動産などの名義変更も完了した数年後に遺産分割協議のやり直しが検討されることがあります。
この遺産分割協議のやり直しは認められているのでしょうか。
結論から言えば、一度は決着した遺産分割協議でも、相続人全員の合意があれば、やりなおすことも法律上は可能です。『共同相続人は、既に成立している遺産分割協議につき、その全部又は一部を全員の合意により解除した上、あらためて遺産分割協議を成立させることができる。』との趣旨の最高裁判決もあります。
遺産を再分割すると贈与になる
上記、最高裁判例では、「全員の合意により解除した上、あらためて遺産分割協議を成立させることができる。」としています。平たく言えば、相続人全員が合意すれば、相続財産の取得者を後から変更できますということです。
このことを不動産登記の例で考えてみます。
① 遺産分割協議で相続人AさんがX不動産を相続することが決定する。
② 「相続」を登記原因としてX不動産をAさん名義に所有権移転登記をする。
③ しかし、数年後に相続人全員の合意で遺産分割協議をやり直すことに決定する。
④ 新たな遺産分割協議では、X不動産は相続人Bさんが相続することに決定する。
⑤ 「錯誤」を登記原因としてAさんの所有権の抹消登記をする。
⑥ 「相続」を登記原因としてX不動産をBさん名義に所有権移転登記をする。
このように新たな所有者であるBさんは、法律上・登記上は「相続」で不動産を取得したことになります。
しかし、相続税法上ではこのような名義の変更は、相続ではなく贈与として取り扱われることになっています。
「当初の分割により共同相続人に分属した財産を分割のやり直しとして再分割した場合には、その再分割により取得した財産は遺産分割により取得したものとはならない」との相続税法の通達が出ています。つまり、やり直しの遺産分割は、税法上の遺産分割としては認められないということです。
したがって、上記のケースでは、相続人Bさんは相続人AさんからX不動産を贈与されたものとして贈与税が課税されるので注意が必要です。
贈与税は、高額になる場合が多いので、遺産の再分割をお考えの際には専門家に相談して慎重に検討することが必要です。
遺産分割協議が無効だった場合
相続人の一部が協議に参加していなかった、相続人でない者が加わっていた、相続人の一人が分割すべき相続財産を隠していたなどの場合は、遺産分割協議が無効になります。
無効の場合の遺産分割協議のやり直しは、通常と同じ遺産分割協議とみなされて、上記のような贈与税の課税対象となることはありません。
もっとも、無効かどうかは裁判の場で争われることになり、多くの場合無効を立証するのは容易ではありません。