子供のいないご夫婦は遺言を作成しましょう。

子供のいないご夫婦の相続はトラブルを生じることが多い

子供のいないご夫婦の相続に関してはトラブルを生じることが非常に多いです。その原因の一つは、子供のいないご夫婦の場合、お互いに相続人は相手方(配偶者)だけだと思っていることが少なくないからです。よくあるケースでは、夫が亡くなって相続人が妻と夫の兄弟姉妹のような場合にトラブルが発生します。
相続が開始して初めて自分だけではなく夫の兄弟姉妹にも相続権のあることを知った妻は、夫の兄弟姉妹は遺産の分割を要求してこないだろうと考える傾向が強いです。しかし、妻の予測とは裏腹に夫の兄弟姉妹が遺産の分割を要求してくることによりトラブルとなります

近年、相続税の増税が確実視されてきたことなどから、相続に関する関心が高まり、各種書籍ばかりでなく雑誌やテレビ等でも相続特集が組まれることが多々あります。その中で、子供のいないご夫婦の相続に関しては、相続人の範囲に注意することや遺言書を作成しておくことなどの注意喚起がなされています。

しかし、それでも実際には夫の相続人は妻だけ、妻の相続人は夫だけと思っている場合が少なくなく、遺言も作成されていないことが多いのが実情です。

遺言を作成しない理由

また、夫が生前に妻だけではなく自分の兄弟姉妹にも相続権があることを知っている場合でも、兄弟姉妹の仲が良ければ良いほど「自分が亡くなっても、自分の兄弟姉妹が妻に遺産を要求するようなことはないから、遺言なんか作成する必要はない。兄弟姉妹を信用していないようなことをするのは嫌だ。」と夫が言って遺言を作成しないというようなケースにも何度も遭遇しました。

親族間の人間関係は相続により変化する

配偶者と兄弟姉妹間だけでなく親子間の相続でもいえることですが、自分が存在している状態での親族間の関係と自分が存在しない状況での親族間の関係は大きく異なる場合が多いことに注意が必要です。
親の存命中にはとても仲の良かった兄弟姉妹が、親の死後に相続をめぐって激しい争いを繰り広げるのは珍しいことではありません。重石であり潤滑剤でもあった親の存在が亡くなり子供たちの利害や感情がまともにぶつかってしまうのです。
相続の事を考える場合には、現状の人間関係だけで判断するのはとても危険です。
上記のような遺言を作成しなかったケースでは、夫という重石であり潤滑剤でもある存在を失ったことにより妻と夫の兄弟姉妹との利害や感情がぶつかりトラブルを生じるのです。

子供のいないご夫婦の相続トラブルの実例

先月にご相談を受けたのが、典型的な子供のいないご夫婦の相続に関してのトラブルについてでした。
事例的には次のとおりです。

ご主人がお亡くなりになり、相続財産はご主人名義のご自宅の土地建物と預貯金及び生命保険という事でした。
ご相談者様のお話をお伺いしたところ、ご主人が亡くなられて1か月もしないうちにご主人の生前は疎遠であったご主人の弟がご自宅を訪れ、自分にも相続権がある事を告げたとの事です。自分だけが相続人であると思っていたご相談者様は、非常に驚きそんなはずはないと口論になったそうです。義弟は、自宅はご相談者様が相続してもよいが、預貯金は自分がすべて相続する。本当はもっと相続する権利があるが、それで我慢するので必要な書類を用意してまた来ると言って帰ったそうです。

困惑したご相談者様は、生命保険の手続きでやってきた保険外交員に相談し、当オフィスを紹介されてご相談にお越しになりました。
ご相談者様は、義弟にも相続権があるのかとご質問されましたので、法定相続分についてご説明いたしました。こういうケースではいつも同様の話の展開になるのですが、義弟に相続させないにはどうすればよかったのですかと質問されました。兄弟姉妹には遺留分がないので奥さんに全財産を相続させる旨の遺言をご主人が作成しておれば義弟には一切遺産を分割する必要がなかった旨を伝えました。そのことを知っておればご主人に遺言を作成してもらっていたのにと、ご相談者様は嘆いておられました。

子供のいないご夫婦の相続トラブルは遺言で防止できる

こうゆう場面に遭遇するたびに痛感するのですが、私たち相続のお手伝いに携わる者にとっては、子供のいないご夫婦の相続人は配偶者や直系尊属だけでなく直系尊属がいなければ兄弟姉妹もなること。また、配偶者と兄弟姉妹が相続人となるケースでは、兄弟姉妹には遺留分がないので遺言を作成しておけば全財産を配偶者に残せることなどは、一般的な知識であると認識しがちです。しかし、今回のようなトラブルを少しでも防止するためには、機会あるごとに積極的にお伝えしていかなければならないと思い、今回のコラムを執筆いたしました。子供のいないご夫婦の相続トラブルは、遺言を作成することにより防止することができることを知っておいてください

相続トラブルの解決方法

なお、今回のご相談のケースですが、提携税理士にご自宅の相続税評価をまた提携不動産業者に実勢価格を調査してもらったところ義弟が主張していた金額よりもかなり低かったので、義弟が相続すべき金額は預金の一部に相当する金額にすぎない旨をご報告し、調査資料を基に遺産分割協議を進めてもらっていますので、円満に解決することができそうです。相続トラブルは感情的になるのではなく、正確な相続財産の評価と法定相続分を基に冷静に話し合うことが解決の早道です。

ぜひ、遺言の作成をご夫婦で話し合ってください

今回のケースのように、預貯金等があればまだよいのですが、相続財産がご自宅の土地建物だけのケースでは、場合によってはご自宅を売却して遺産を分割することにもなりかねません。そんなことにならないためにご主人は少しででも早く遺言を作成するようにしてください。また、奥様は遺言の必要性をご主人に説明し、ご主人が遺言を作成するよう積極的に夫婦で話し合うようにしてください